横浜市在住のおでかけ好きの地元ライターがとっておきの横浜の魅力を、地元民目線で紹介します。
ナポリタンを知れば街を知れる?ナポリタンの魅力
喫茶店の定番メニューとして知られる「スパゲッティナポリタン」(以下ナポリタン)。戦後にナポリタンが全国に広がりましたが、その発信地の一つが「横浜」だということはご存じですか?
「ナポリタン」と一口に言っても、使う麺や具材、味付けなど店によってさまざま。横浜には数多くのナポリタンを提供するお店があり、横浜の魅力の一つとなっています。
今回は「横浜に住んで毎日でも食べたい」ナポリタンの魅力と地域に溶け込んだナポリタンの名店を日本ナポリタン学会(横浜市都筑区)の田中健介会長に伺ってきました。
目次
■横浜とナポリタンの歴史とナポリタンの定義
> まず日本ナポリタン学会について、教えてください。
田中会長)
「ナポリタン」は戦後、日本の発展と共に全国に広がりました。この貴重な食文化をもう一度見つめ直して、みんなで楽しもうという趣旨で、横浜の有志市民が結成したのが「日本ナポリタン学会」です。
我々が「ここは!」と思った横浜市内を中心にナポリタン提供店を「日本ナポリタン学会認定店舗」として認定させてもらっています。これは単に味がおいしいというだけではなく、お店の背景にあるストーリーやお店がいかに街と関わっているか、といった基準でも決めています。
食文化は街の魅力を決める一つの要素です。ナポリタンを提供するお店は、街の老舗の喫茶店や洋食店が多く、ナポリタンを切り口にお店を見てみると、その街がどんな街かも見えてきますね。
> 確かに。その地域のそれぞれの歴史があって、ご当地食が生まれているので、食文化を見るとその街の雰囲気が見えてくるということですね。
横浜でナポリタンが食べられるようになった背景を教えてください。
田中会長)
ナポリタンの発祥については諸説あるのと、いろいろな要因が複雑に絡み合っているので、一言では語れないのですが。
事実を追っていくと、まずフランス料理でナポリテーヌ(ナポリテーイン)というのがあって、これが原形といわれています。これはトマトソースベースのスパゲッティで、コース料理の中の付け合わせとして出されていました。
横浜のホテルニューグランドでは、初代総料理長のサリー・ワイルさんがコース料理だけでなく、カジュアルに一品から料理を提供しようとアラカルトを導入して、このナポリテーヌも提供されたそうです。
そこから戦後ホテルニューグランドがGHQ将校の宿舎として接収されたとき、二代目総料理長の入江茂忠さんが、サリー・ワイルさんから受け継いだスパゲッティ料理のレシピを参考に生み出したのが「スパゲッティ ナポリタン」。
米兵が持ち込んだ軍用保存食の中にスパゲッティとトマトケチャップがあり、彼らが茹でたスパゲッティにケチャップを和えて食べている姿を見て、トマト本来の味わいを生かしたホテルならではの料理にしようとしたのがきっかけのようです。
また、サリー・ワイルさんには弟子が何人もいて、その中の一人の石橋豊吉さんが野毛にある洋食店「米国風洋食レストラン センターグリル」で出したナポリタンも、広まるきっかけとなりました。
当時希少だった生トマトではなく、ケチャップをベースに庶民的な料理に仕上げたのがこのお店といわれています。
こうして横浜ではホテル料理から派生して、洋食文化へと発展して、ナポリタンが広がりました。
> ホテルニューグランドが発祥というのは聞いたことがありましたが、そういった背景があったのですね。「センターグリル」さんも横浜では有名な洋食店ですが、そのように関わっていたとは知りませんでした。
田中会長)
多くのナポリタンが一度茹でた麺を冷蔵しておいてから、炒めて仕上げるという作り方をしているので、注文が入ってからすぐに調理して出せるという手軽さは、喫茶店のオペレーションにもマッチします。こういった理由からいろんな喫茶店がメニューとして採用したようです。
> ナポリタンの定義とその魅力も教えてください
田中会長)
当学会が考える定義は「麺をトマトを使ったソースかケチャップで炒めたメニュー」あるいは「そのお店がこれはナポリタンだといえばそれを尊重する」としています。自由度がとてもあるので、使っている具材や麺の太さ、ソース、炒め方など本当に店ごとに異なります。この違いがナポリタンの面白いところでもあって、そうしたいろんなナポリタンを食べ歩くのも楽しいですね。
横浜にも老舗喫茶店・洋食店からチェーン店まで、ナポリタンを提供するいろんなお店があります。そんなお店を週末に気軽に回れるのは、横浜の魅力かもしれません。
■特徴的な横浜のナポリタンの名店3選
これから横浜のナポリタンを楽しみたいという方向けに、まず訪れてほしい3店舗を田中会長に教えてもらいました。
・米国風洋食レストラン センターグリル(横浜市営地下鉄「桜木町駅」)
まず、横浜のナポリタンを紹介するにあたって外せないのが、先ほども登場した横浜・野毛にある「米国風洋食レストラン センターグリル」です。
1946年創業の老舗洋食店で、創業者の石橋豊吉さんは、ナポリタン発祥のホテルニューグランドの初代総料理長サリー・ワイルさんが経営していた「センターホテル」(ホテルニューグランド横にあった外国人向けホテル)で修業していました。店名のセンターグリルはこのホテルに由来します。
トマトソースベースで作られたナポリタンの発祥はホテルニューグランドですが、ケチャップベースのナポリタンの元祖はセンターグリルと言われています。
提供するのは「太麺パスタのナポリタン」で、日本で最初にスパゲッティを量産製造したボルカノ・スパゲッチの2.2ミリの極太の麺を今も使っています。鉄のフライパンで豪快に炒めるナポリタンは、多くの方が「ナポリタン」と聞いて思い浮かべる味そのままだと思います。
ふわふわとろとろオムライスやオムライスにチキンカツがのった浜ランチ、パスタとチキンカツ、ライスが一緒になったスパランチなど他の洋食メニューもおすすめで、まさに「横浜に住んで毎日でも通いたい」と思わせるお店です。
基本情報
「米国風洋食レストラン センターグリル」
住所:横浜市中区花咲町1-9
アクセス:横浜市営地下鉄「桜木町駅」徒歩5分
電話:045-241-7327
URL:http://www.center-grill.com/
・ぱぁらー泉(京急本線「南太田駅」)
次に紹介するのが南区南太田にある「ぱぁらー泉」です。こちらは京急本線「南太田駅」前にある喫茶店で、1967年創業の老舗店です。かつては南区内に4店舗あったそうですが、現在はこの本店と京急本線「弘明寺駅」近くにある六ツ川店が営業しています。
こちらで提供されるナポリタンは「ポラタ」という名前で提供されます。名前の由来は、デミグラスソースの中にウインナーが入った「シポラタソース」からきていますが、このシポラタソースを使っているわけではありません。ぱぁらー泉の「ポラタ」にはウインナーが入っていて、それがシポラタソースと共通しているという理由で、「ポラタ」と名付けられたようです。
トマトケチャップを使ったポラタは、食べた後のお皿にソースが残らないほど極限まで炒めます。力強い濃厚なケチャップの味付けのナポリタンです。駅前で半世紀以上営業されているだけあって、街には欠かせないお店です。
近所には「ポラタ」の名前がついたマンションがあります。これはこのぱぁらー泉の「ポラタ」にちなんで名付けられたそうで、いかに街に愛されるお店かがわかります。
基本情報
「ぱぁらー泉」
住所:横浜市南区南太田1-27-10
アクセス:京急本線「南太田駅」下車すぐ
営業時間:8時〜20時30分
電話:045-713-7722
URL:http://naporitan.org/?p=690
・珈琲専門店山百合(京急本線「京急鶴見駅」)
最後に紹介するのは、京急鶴見駅近くにある「珈琲専門店山百合」です。1975年創業のお店で、2021年には小学校教員だったという当時25歳の慶野未来さんが店主を引き継ぎました。
2022年のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」の舞台に鶴見が登場したことをきっかけに、「やんばるナポリタン」という沖縄をテーマにしたナポリタンを提供しています。これは日本ナポリタン学会と公益財団法人横浜市観光協会が協力して、横浜市内各所の参加店舗で、沖縄食材を使ったアレンジナポリタンを出してもらおうと始めたキャンペーンの一環で生まれました。
珈琲専門店山百合の「やんばるナポリタン」は、近隣の沖縄タウンの中にある沖縄そば店「ヤージ小(ぐわぁー)」から提供を受ける沖縄そばの自家製麺を使ったナポリタンです。ケチャップベースのソースに島唐辛子を使い、ピリ辛に仕上げています。お店は、店主の人柄もあって、幅広い客層に愛されています。
基本情報
「珈琲専門店山百合」
住所:横浜市鶴見区鶴見中央4-21-12
アクセス:京急本線「京急鶴見駅」徒歩2分
電話:045-521-0560
URL:https://www.instagram.com/coffee_yamayuri
■新しいものを受け入れ、発展させる文化がある横浜が育んだナポリタン
> 3店舗紹介いただいただけでも、それぞれに面白いストーリーがあって、まったく異なるナポリタンを提供しているんですね。話を聞いただけで食べたくなりました。横浜に住めば、おいしいナポリタンを提供してくれるお店がたくさん見つかりそうです。明日からでも自分だけの推しナポリタンを探しに行きたくなりますね。
田中会長)
そのお店のナポリタンの歴史を探るだけでもとても面白いですよね。周辺にあるお店や店主、街との関わりも見えてきて、よりそのお店が好きになります。そして、ナポリタンがイタリア料理ではなくフランス料理から派生していったからこそ、これだけ広がったのだと私は考えています。
フランス料理はもともと、他国の食文化を積極的に取り入れて、それを独自に解釈して発展してきた料理です。そうした精神は、トマトソースでもケチャップでもどちらでも使っていいというところからもわかるように、ナポリタンの懐の深さに現れています。
横浜という土地も開港の時から海外などから新しいものを受け入れて、自分たちなりに昇華する文化があったと思います。そうした文化があるこそ、ナポリタンという料理が横浜で発展していったのではないでしょうか。まだまだナポリタンについて語り尽くせませんが、これからも横浜とナポリタンを楽しんでいきたいと思います。
> ナポリタンのことを伺っていると、おなかが空いてきました。いろんな方に横浜でおいしいナポリタンをはじめとしたグルメを楽しんでもらいたいですね。
横浜に住めば、すぐ近くにおいしい料理を提供するお店がたくさんあります。グルメを切り口にお店について深く知ってみると、その街や地域の文化も見えてきて、横浜に愛着がもっと湧いてくるかもしれませんね。
田中会長、本日はありがとうございました。
田中会長)
ありがとうございました。
基本情報
「日本ナポリタン学会」
住所:横浜市都筑区中川1丁目17−22 ガーデンプラザ宮台 402シェアリーカフェ内
URL:http://naporitan.org
田中健介さん
横浜市戸塚区生まれ。その後横浜市南区、中区で育つ。横浜発祥と言われるスパゲッティナポリタンを愛し、2009年より「日本ナポリタン学会」会長として、横浜を中心にナポリタンの面白さを発信する。
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