荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪⑦~JR横浜線沿線北部エリア ショッピングモールの竜宮城を経て、光あふれる農園へ、里山へ。

ショッピングモールの竜宮城を経て、光あふれる農園へ、里山へ。

JR横浜線鴨居駅からほど近い「ららぽーと横浜」はショッピングモールの竜宮城だ。ふんだんに降り注ぐ天井からの光の中を、魚のように回遊する人々に混じって歩いた。サウスコートからノースコートまでは結構な距離がある。北の端にひっそりと「つづきの本ばこ」が隠れている。

つづきの本ばこの外観
多くの人に利用されている「つづきの本ばこ」

商品の氾濫に慣れた目には、棚に本の並ぶスペースは新鮮に映る。床が緑色の一画は、裸足でくつろげるようになっている。親子連れが思い思いの姿勢で遊んだり本を読んだりしている。こちらの正式名称は「横浜市立図書館 都筑南図書取次所」。インターネットで予約した図書の取次拠点で、横浜市立図書館(市内18館)の本の受け取りと返却ができる。
「棚に並んでいる本は、ここで選んで借りることもできます」
横浜市中央図書館企画運営課の柳生留美さんによると、「お子さんが寝転んで絵本を読む」のもOK。

つづきの本ばこを利用する親子
思い思いに本を読む親子連れ

絵本の読み聞かせをするおはなし会も年に数回ある。普通の図書館は本を借りようと思って来る利用者が中心だが、こちらは「ららぽーと横浜」にお買い物に来た人がふらりと寄って、本を読んでいったりする。都筑区は子育て世代が多く、彼らが利用しやすいようにと絵本を多く置いている。奥の壁には司書のおすすめ本が並んでおり、月替わりでテーマを決めて展示する。夏場は怖い本を、秋はスポーツ、冬場は冬ごもりして読みたい本を集めたコーナーになっている。「ららぽーと横浜」には紀伊國屋書店も入っている。書店と連携した取組として、同じテーマで、書店員が選んだ本と都筑図書館・緑図書館の司書が選んだ本を並べて紹介しているのも一興だ。思わず一冊手に取りそうになったが次がある。

中央図書館企画運営課の柳生留美さんと荻野アンナさん
お話を伺った中央図書館企画運営課の柳生留美さんと

先ほどとは異なる回廊を通って北から南に戻る。「都筑区子育て支援センター Popola(ポポラ)サテライト」は、本の少ない「つづきの本ばこ」といった雰囲気だ。妊婦や子連れで訪れて気ままに過ごせる、子育てのオアシスなのである。裸足で親子が遊べる「ひろば」の奥の「お茶の間サロン」で運営団体の坂東美佳さんから話を伺った。

こちらは横浜市都筑区役所と協働でNPO団体が運営している。同様の拠点が18の区にそれぞれあるが、拠点によってカラーが異なる。Popolaサテライトは商業施設の中にあるのが特色で、そのぶん利用者は多い。1日130人、年間で3万人。

ららぽーと横浜内にある都筑区子育て支援センターポポラサテライト
利用しやすい場所にある都筑区子育て支援センターPopolaサテライト

「ひろばでお子さんは預かってもらえるんですか」
「「横浜子育てサポートシステム」の会員に登録すれば、有料ですが地域の会員さんに預かってもらえます」
そのマッチングもPopola内にある事務局が行う。1時間500円〜600円で、子供一人に対して一人がつく。空いた時間で「ららぽーと」内の病院へ行く人もいれば、リフレッシュで美容院へ行く人もいる。
「ビョーインとビヨーインですか」

Popolaの坂東美佳さんにお話を伺う荻野アンナさん
坂東美佳さんにお話を伺う荻野アンナさん

三世代で来る家族も多い。母がショッピングの間、祖父母と孫がこちらで一緒に過ごす。土曜日には父親の利用が多い。
「父親の育休取得率が上がっているのがわかります」
これまでは母親が相談していた子育ての悩みを、父親もするようになっている。悩み相談のためには横浜子育てパートナーが常駐している。親と行政の専門の部署の間に入って繋ぐのがPopolaの役割だ。
「こちらに来ると先輩のパパやママが多いので、その話を聞けるのも大きいです」
妊婦のためには両親教室をやっている。ミルク作り体験は、ミルク自体は簡単に作れるものの、その後に哺乳瓶を洗って消毒せねばならない。作ったミルクを飲ませるのにも時間が必要だ。その後おむつを替え、寝かしつけて少しほっとしたらもう次の授乳の時間が来る。そういう流れを知ることもできる。

坂東さんと荻野さん
多くの親子が利用するセンターで

横浜市独自の子育て応援アプリ「パマトコ」でイベントへの申し込みが可能となり、参加する人は増えている。
「ポポラに来られずに子育てに悩んでいる方もたくさんいます」
自分一人で抱え込んで悩んでいるパパやママにどう伝えていくかが課題だという。
坂東さんに、常連さんを紹介してもらった。夏休みでよく来るというのは、秋月真澄さん親子だ。蒼空(そら)ちゃんは8歳、優亜(ゆあ)ちゃんは2歳。
「パパは関西で働いてたけど、こっちに来たの」
「会社の中の転勤なんです」
「パパの会社で部長さんがね」
蒼空ちゃんは事情通だ。

秋月さん親子にお話を伺う荻野アンナさん
秋月さん親子にお話を伺う

関西から移住した秋月さんは都筑区在住、自然が多いのが気に入っている。蒼空ちゃんの肌荒れが改善し、毎日薬を塗らなくてもよくなった。
「こちらはショッピングのついでですか」
「ここに遊びに来るのがメインです」
暑くても親子で自転車を漕いで来る。優亜ちゃんが「バイバイ」と手を振ってくれた。

2階へ降りて北へ向かう。目指す施設はイトーヨーカドーの中にある。TOYLO PARK(トイロパーク)はおもちゃ屋と呼ぶには規模が大きい。ガシャポンのデパートがある。恐竜がいる。その奥の暗がりが「リトルプラネット」という別天地になっている。イトーヨーカドーの伊藤里香さんによると、「遊びと学びを融合した次世代型テーマパーク」である。デジタルを駆使し、アトラクションごとに異なるプロジェクターが用意してある。

トイロパークの入口
次々と子どもたちが入場していくTOYLO PARK powered by Little Planet の入口

「子供の頃、縄跳びで遊びましたよね」
そのデジタル版が目の前にある。壁から床にかけて投影された恐竜が尻尾を振る。その上を跳んで、どれだけ跳べたかが数値化される。度肝を抜かれたが、驚くのはまだ早かった。「SKETCH(スケッチ) RACING(レーシング)/お絵かき3Dレーシング」は、用意されたバイクや車の塗り絵に色を塗る。それをスキャンしたとたん、画面に自分の塗った車が3Dで登場する。私が見た時は母子連れの、母が車、息子がバイクでレースに参加した。色とりどりの車が疾走し、ママが1位、ボクが2位だった。

スリーディーレーシングの画面
子どもたちが夢中の3Dレーシング

平日で1日フリーパスの子供料金が1800円、大人は900円。小学校や特別支援学校の遠足場所としても使われているそうだ。50名以上だと貸し切ることもできる。

館内を案内していただいた伊藤里香さんと荻野アンナさん
館内を案内していただいた伊藤里香さんと

鮮やかな竜宮城から車で15分ほどで、目の前に田んぼが広がっている。奥には東名高速の高架線が走っているのが、都会の農園らしい。現れた佐藤健太さんは、真っ黒に日焼けして、場所が湘南ならサーファーに見えたかもしれない。渡された名刺には「野彩家(やさいや) 佐藤農園」とある。
「彩の字が独特ですね」
「食卓に彩りを、と思いまして」
そのために少量多品目で、100種類の作物を育てている。トマトだけでもハウス、露地、大玉、中玉、ミニトマト、と数え挙げていくと100種類になるのだそう。
販売は直売所がメイン。彩りのある店にして、その彩りを食卓に届けることをモットーにしている。

佐藤農園の佐藤さんと荻野アンナさん
丹精込めた田んぼをバックに佐藤健太さんと

佐藤さんは2年前に結婚し、奥さんの籍に入った。代々が農家だったので、農家を継ぐことは承知の上だった。ところが去年、義父が亡くなり、思ったより早い代替わりとなった。プレッシャーもあるが、守ってきた貴重な緑を残していきたいと考えている。
「衣食住で食は欠かせません。そこを職業としてできるのは誇りに思います」
佐藤さんは一昨年、県立農業アカデミーに1年間通った。佐藤さんも36歳と、農家としては若めだが、同期には20代や30代も多かった。家が非農家なのに仕事を辞めて、新規で農業にチャレンジする人もいる。農業を始めた時に全てが揃っていた自分は恵まれている、と知った。自己完結しがちな農業だが、アカデミーで色々な人と接することができて、同期との切磋琢磨は良い経験になった。

農園で育てている茄子
農園で育てている茄子

佐藤さんは稼げる農業を目指している。横浜の数多い消費者にアピールするためには、他と差別化しないといけない。ハウス栽培で出荷の時期をずらして、市場にその商品が無い時期に提供する、などの工夫をしている。トマトもハウスなら3月から6月の収穫が可能になる。

儲からなくとも守るべきものもある。佐藤さんにとっては米がそれで、ただし一番「お金にならない」と言う。肥料代が上がり、燃料代がかかり、機械を買わねばならない。この辺りは小さな田んぼが点在し、手間もかかる。しかし日本の主食を作ることで人々の食生活を支えることに意義を感じている。

畑を見せていただいた。うちわのような大ぶりな葉を茂らせた黒い茎から、ナスの紫がぶら下がっている。人の腰ぐらいの高さまでみっしりと葉が密集しているのがピーマンだ。ジャンボピーマンは普通のものと比べると、倍以上の大きさがある。通常のものより青臭くなくて食べやすいらしい。空芯菜、水前寺菜、大葉、オクラ、赤紫蘇。確かに面積の割に多品種だ。

農園でとれたジャンボピーマンと一般的なピーマン
左がジャンボピーマン。右の一般的なサイズに比べて倍くらいある

「うちはなるべく薬を撒かないんです。化学肥料もあまり使いません」
代々の方針を、佐藤さんは自分の代になっても続けている。形が悪くても味が良いからと買ってくれるお客さんを増やしていければと思っている。

獲れたての生食用のかぼちゃ「コリンキー」
獲れたての生食用のかぼちゃ「コリンキー」

直売所にもお邪魔した。この日の収穫は生食用のかぼちゃ「コリンキー」と大玉のスイカだ。コリンキーは薄切りをマリネにすると、あっさりとしていくらでも食べられる。スイカは冷蔵庫に入らなかったため、冷やさずにそのまま食べたが、驚くほど甘かった。横浜の土の滋味(じみ)を堪能した。

直売所前でスイカを持つ荻野アンナさんと佐藤さん
直売所前でスイカを持つ荻野アンナさん

緑区には森がある。新治(にいはる)市民の森は、面積約70ヘクタールの自然の宝庫だ。その山道は最低限整備されているが、公園と比べればワイルドであるらしい。森の入り口には「新治里山公園・にいはる里山交流センター」があって、こちらだけでも半日を心地よく過ごすことができる。

公園の要は、元名主の館、旧奥津邸だ。入り口から坂を登った右手が納屋で、等身大の(わら)の馬がお出迎えしてくれる。

納屋におさまる等身大の馬のオブジェ
納屋におさまる等身大の馬のオブジェ

「藁アートの作家が作った、馬のはるちゃんです」
とセンターの事務局長、吉武美保子さん。隣の土蔵は大正時代の築で、市の歴史的建造物。石段を登った先は、長屋門になっている。江戸末期のもので、これまた歴史的建造物だ。細長い家の真ん中が門になっていると思えばいい。左右に2部屋、2階部分に3部屋ある。1階では季節になると吊るし雛を飾ったりするという。

立派な長屋門をくぐる荻野アンナさんと吉武美保子さん
立派な長屋門をくぐる荻野アンナさんと吉武美保子さん

立派な門に相応しい主屋は、江戸時代のものと言われたら信じてしまいそうだが、実は築30年である。昔ながらの藁葺き屋根がいったんは台風で全壊し、その後「普通の家」が建ったが、当主が100年保つ家を目指し、全国の名木を駆使して、平成6年にこの建物を完成させた。平成12年に当主が亡くなり、13年に市に寄贈され、公園として開かれて16年になる。

旧奥津邸の主屋
旧奥津邸の主屋

入ってすぐのところに10畳の座敷がふたつつながっている。食べたり、お茶を飲んだり。「乳幼児が転がっていたりパパが寝ていたり」する贅沢な休憩所だ。お話会やお琴の演奏会にも使われる。

縁側にもテーブルが出ている。お庭を眺められる「一等席」だ。居間には掘り炬燵(こたつ)が設えてある。土間は当時すでに珍しかったはずだが、古い家の作りを踏襲している。気の置けないお客さんの相手はこちらでしていたようだ。

奥津邸の「一等席」に座る荻野アンナさん
奥津邸の縁側に座る荻野アンナさん

ここで閉館の時間となった。今から雨戸を25枚閉めねばならない、とのことで退散した。坂を下って右手に「つどいの家」がある。建った13年前は公共建築としては大型の木造だった。中学の吹奏楽部の発表会など、雨でもこちらでやることができる。毎週土曜日は農家の朝市に使われている。「家」の前の広場は、そばの新治小学校の児童が放課後遊びに来る。

生徒たちが遊びに来る広場と集いの家
生徒たちが遊びに来る広場と集いの家

「分校みたい、と言われてるんです」
それから管理事務所に移ってお話を伺った。

奥津さんが亡くなった平成12年は、市民の森がオープンした年でもある。奥津さんは市民の森づくりに協力的で、「緑を活用しながら生きていく術を考えている方」だった。ご遺族から横浜市へ寄贈されたのち、森や谷戸田、梅田川の保全活動団体とともに、多くの市民が、その思いを受け継ぎながら里山公園づくりに携わった。6年にわたり、行政と市民が額を寄せ合って、ふさわしい行事や設えを考え試行したり、耐震や地すべり防止など安全性の確保、バリアフリー対策など、公共施設への改修工事がすすめられた。集まった有志でNPO法人(新治里山「わ」を広げる会)を立ち上げ、今も管理を担っている。

管理事務所にある新治市民の森の全景地図
管理事務所にある新治市民の森の全景地図

平成23年に専門家や利用する市民、ボランティア団体と横浜市で、「新治市民の森保全管理計画」がつくられた。関係者で毎月協議や調整する会議が行われ、今年の3月で150回に及んだ。

生物多様性を守るためには、行政とボランティアの他に来訪者のマナーが必要となる。緑地は広いが、何万人という来訪者が虫を1人1匹ずつ獲ったら、その虫はいなくなる。
「最近はわかってくれてる人が増えました」
例えばホタル観察には、スマホや懐中電灯は点けない。十数年言い続けたことが、現在浸透しつつある。

新治里山公園にある旭谷戸広場で語らう荻野アンナさんと吉武美保子さん
新治里山公園にある旭谷戸広場で語らう荻野アンナさんと吉武美保子さん

「里山の身近な自然で命のつながりを体感する、横浜には必要な場所なんです」
緑の横浜を守る気概に、大きく頷いて、里山交流センターを後にした。

【基本情報】
横浜市立図書館 都筑南図書取次所(つづきの本ばこ)
住所:横浜市都筑区池辺町4035-1 ららぽーと横浜3階
URL:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/tshokan/tsuzuki/honbako.html

都筑区子育て支援センターPopolaサテライト
住所:横浜市都筑区池辺町4035-1 ららぽーと横浜3階
URL:https://popola.org/satellite/

TOYLO PARK powered by リトルプラネット イトーヨーカドー ららぽーと横浜
住所:横浜市都筑区池辺町4035-1 イトーヨーカドー ららぽーと横浜 2階
URL:https://litpla.com/space/toylo_yokohama/

野彩家 佐藤農園
住所:横浜市緑区十日市場町819-10
URL:https://www.instagram.com/yasaiya.yasai/

新治里山公園 にいはる里山交流センター
住所:横浜市緑区新治町887
URL:https://www.niiharu.jp/


【関連記事】
荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪①~横浜駅周辺ベイエリア 花ざかりの山手から買い物天国、横浜橋通商店街へ
荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪②~JR根岸線沿線沿岸エリア 「海を見ていた午後」に訪れた浜マーケットは昭和レトロ
荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪③~新横浜駅周辺エリア 青空の似合う街角、新横浜から羽沢横浜国大駅あたり
荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪④~相鉄いずみ野線エリア 人々を惹きつける田園風景と「ゆめが丘ソラトス」
荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪⑤~港北ニュータウン周辺エリア 中世フランスの街並みをイメージした仲町台をそぞろ歩き。ファッションからグルメ、せせらぎまでを愉しむ
荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪⑥~京急線・シーサイドライン沿線北部エリア 新鮮な食のワンダーランドから、インクルーシブ遊具のある公園、そして海へ。

荻野アンナの笑顔の写真

ライター:荻野アンナ
1956年横浜市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。83年より3年間、ソルボンヌ大学に留学、ラブレー研究で博士号取得。89年慶應義塾大学大学院博士課程修了。以後2022年まで同大で教鞭をとり、現在名誉教授。1991年「背負い水」で第105回芥川賞、2002年『ホラ吹きアンリの冒険』で第53回読売文学賞、08年『蟹と彼と私』で第19回伊藤整文学賞を受賞。そのほかの著書に『カシス川』『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』など。神奈川近代文学館館長。

page top