荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪⑤~港北ニュータウン周辺エリア 中世フランスの街並みをイメージした仲町台をそぞろ歩き。ファッションからグルメ、せせらぎまでを愉しむ

中世フランスの街並みをイメージした仲町台をそぞろ歩き。ファッションからグルメ、せせらぎまでを愉しむ。

横浜市都筑区にある仲町台は歩くのに心地よい街だ。街並みは白と煉瓦色で統一されており、街路樹の緑が映える。南フランスの田舎を連想したが、中世ヨーロッパをイメージした街づくりと後で知る。

仲町台の街並み
シックな仲町台の街並み

秋風の中をそぞろ歩いてから、ハワイアンレストラン「Laule‘a Rainbow(ラウレアレインボー)」のドアを開けた。仲町台商業振興会の会長、相澤淳也さんと待ち合わせをしている。

ハワイらしい外観のラウレアレインボー入口
ハワイらしい外観のLaule‘a Rainbow入口
仲町台の街並みをバックに映る荻野アンナさんと相澤淳也さん
街路樹の街並みをバックに相澤淳也さんと

相澤さんからは2枚の名刺を渡された。会長は横浜桜並木郵便局の局長でもあった。商店街の会長が郵便局長とは珍しい。
「郵便局は街を発展させるのが使命ですから」
半分使命、半分仕事、と付け加えた。街のためにとイベントの手伝いをしていたら役員に誘われ、高齢の前会長の退任に従って、若い相澤さんに白羽の矢が立った。それから5年になる。

会員は130社を超え、神奈川で最大クラスを誇る。仲町台駅は「マイナーな駅」なのに会員は多い。マイナーイメージを払拭し、仲町台の存在感を高めていきたい。
「うちは商売人の集まりですから、仲町台に住んでみたい人を増やしたいんです」

ラウレアレインボーの店内でゆっくり相澤さんのお話をうかがう荻野アンナさん
Laule‘a Rainbowの店内でゆっくり相澤さんのお話をうかがう荻野アンナさん

そのためにイベントに力を入れる。「仲町台まつり」は夏祭りだったが、夏が暑すぎるからと6月頭に縁日として開催するようになった。10月には「仲町台ハロウィン」。子供の頃の楽しかった記憶が大人になってからも仲町台に住み続けるきっかけになれば、と考えている。

大人のためには夏の「仲町台乾杯フェスタ」がある。3枚綴りのチケットで、1軒につき1品1杯を3軒分堪能できる。

街の美化にも心を配る。広場の植え込みを整備し、町内会と協力して駅前の花の水やり、植え替えをしている。
「街がきれいになると、治安も良くなるかと」
子育て世代の多い街で安心・安全は第一条件なのだ。防犯カメラも6台設置したという。

街の自慢のひとつが「グリーンマトリックスシステム」だ。様々な拠点を緑道で繋いでいる。車道の下がトンネルになっていたりと、車と遭遇せずに、かなりの距離を歩くことができる。木の存在で夏は涼しく、週末には虫取り網と籠を持った子どもの姿も少なくない。

そこで時間となり、相澤さんとお別れをした。私は居残って、「Laule‘a Rainbow」の、その名も「ザ・レインボー」というハンバーガーセットを頼んだ。どん、と置かれたそれは、両手に余る大きさと高さである。3連のパティとチーズとトマトとベーコンエッグを、バーベキューソースが上手くまとめている。みっちりとした肉の質感が空腹をなだめて、私は満足に目を細めた。

ボリュームのあるハンバーガー、ザ・レインボー
ボリュームいっぱいのハンバーガー「ザ・レインボー」
ランチでハンバーガーセットを食べる荻野アンナさん
インタビューの合間にランチもいただく

アロハを着た若い女性が店長だった。店自体は20年の歴史を持つが、板橋美奈さんが受け継いで2年になる。クリスマスに店のオファーがあり、正月には店主が交代したというから話が早い。前には赤字続きだったのが、板橋さんが店に本腰を入れた3月から、たちまち黒字に転じたという。

ラウレアレインボー店長で経営者の板橋美奈さんと荻野アンナさん
Laule‘a Rainbow店長で経営者の板橋美奈さんと

「本格的な飲食店は初めてだったんですよ」
出身地の北海道での不動産業を皮切りに、東京では音楽関係の仕事やら、オンライン限定のフードデリバリーやら、クラブでのDJの顔も持つ。しかし大学で管理栄養士の国家資格を取っていたというから、こちらのほうが天職だったのだろう。

店内の奥はバーカウンターになっている
店内の奥はバーカウンターになっている

土日は車で遠くから来る客が多い。テラス席はペットOKなので、犬連れの人も訪れる。普段の夜は地元客で賑わう。

「ザ・レインボー」は2980円だった。飲食店が安めのこの街では、若干高めの値段設定だが、輸入物を厳選して扱っているので原価そのものが高い。人気はよりお手頃なアボカドバーガー(1580円)のチーズトッピング(200円)。板橋さんの笑顔のトッピングが店の一番のごちそうだ。

レストランの斜向かいにブティック「Euphonica(ユーフォニカ)」はある。シックで上質な品揃えが目を引く。

洗練された印象のユーフォニカ入口
洗練された印象のEuphonica入口

「ファッションストリートではない仲町台で、なぜハイファッションを?」
代表の井本征志さんに聞いてみた。
「横浜は人口の割に服を扱う店が少ないんですよ」

店内で並ぶ代表の井本征志さんと荻野アンナさん
店内で代表の井本征志さんと

隣に巨大都市があると、そちらに人を吸われてしまう。大阪の隣の神戸もそうだが、東京の隣の横浜も同様なのだ。その中で井本さんは地元にこだわっている。しかし彼のファッションへの道は平坦ではなかった。大学の卒論は『古事記』だった。氷河期世代で職を転々とし、塾の経理、おもちゃ屋の倉庫番、家具屋、クレジットカード会社、レザー関係の会社ときて、ようやく独立に至る。

センスを感じさせる洋服がきれいにディスプレイされている店内
センスを感じさせる洋服がきれいにディスプレイされている

店の一角には私物の本が並んでいる。井本さんの友人が訳したフランス文学書や、別の友人の漫画本などで、常連さんが借りていったりするという。漫画は原画展を店でやり、大盛況だった。

店は今年で11年目。
「すっかり根付いてますね」
「根付いてないんですよね」
地元より遠来の客のほうが多いらしい。「東京じゃなくて、敢えてここ」でやっている井本さんには悩ましい現実だ。

井本さんは横浜の北部で育ち、子供が生まれたのを機に東京から戻って16年になる。仲町台の魅力は「圧倒的な暮らしやすさ」だ。緑道で公園同士を繋げて、街の骨格にしているのはよくできたシステムだと思う。街は誇りだが、横浜市民としての意識には複雑なものがある。北部の横浜にとってはみなとみらいより東京のほうが近く感じ、遊ぶのは渋谷だったりする。しかし郷土教育のおかげで市民としての意識が強い。アイデンティティは横浜だが、文化圏は東京、という矛盾を抱え込むことになる。

商品棚に並ぶ横浜ブランドの革製品など
横浜ブランドの革製品などが並ぶ

「東京の後ろにいたくない感、はありますね」
東京の真似をするのではなく、東京に真似してほしい。そのために東京の流行りのブランドは「ぐっとこらえて」断っている。代わりに置いてあるのが、センター北のクリーニング店オリジナルの洗剤だったり、新羽のブランドの財布だったりする。

ここ数年で元町の裏手や反町や野毛に素敵な服の店が増えてきた。横浜は少しずつ面白くなっている、というのが井本さんの実感だ。

ハイファッションの後は野菜が待っていた。車で一走りの距離に「JA横浜『ハマッ子』直売所 メルカートきた店」がある。

「JA横浜『ハマッ子』直売所 メルカートきた店」の入口
「JA横浜『ハマッ子』直売所 メルカートきた店」の入口
横浜市内産の野菜が並ぶ店内
横浜市内産の野菜が並ぶ店内

広い売り場に横浜市内産の野菜が中心に並ぶ。横浜名産といえば「浜なし」だが、季節はちょうど終わったところだった。代わりに並んでいたのが、浜なしの規格外品を用いたチューハイだった。その隣には「やるJAん(やるじゃん)横浜!メロンサワー」が並ぶ。原料からパッケージデザインまで「オール横浜」の珍しい一品だ。浜なし関係では焼肉のタレもあり、横浜市緑区の加工場が作っている。傷物を加工品にするのは、地元の組合員のアイデアだったという。

浜なしの規格外品を用いたチューハイ
浜なしの規格外品を用いたチューハイ
「地産地消宣言」と書かれた額をバックに竹中直人さんと荻野アンナさん
「地産地消宣言」と書かれた額をバックに竹中直人さんと

「他にも名産はありますか」
副店長の竹中直人(なおひと)さんに聞いてみた。シャインマスカットの「浜ぶどう」、小松菜、ナス。秋には浜柿や栗も出てくる。

農協の本部に出荷登録した農家、常時50人から70人がこちらに出荷している。登録のためには農薬の適切な使用などの基準があり、過去に事故のない農家のみが選ばれる。

「ハマッ子」は市内に13店舗あるが、こちらは規模的に大きく、農薬や肥料も扱っている。敷地内に農機センターもあり、修理の必要な刈り機などがトラックで運ばれてくる。種蒔きから出荷まで「ここの場所で完結」するのだ。

お漬物用などの調味料も数多く並ぶ店内
お漬物用などの調味料も数多く並ぶ

野菜以外の売り場にも目を走らせた。防風ネットや虫除けネットの棚がある。銀色の保冷バッグと同じ素材の日除け帽がある。一輪車用の替えタイヤや園芸用散水ノズルも珍しい。

農家にとっての必需品が揃えられている店内
農家にとっての必需品が揃えられている

結局買ったのは全て横浜産で小松菜、ナス、すだち、とチューハイ2本である。その日の晩酌は小松菜の炒め物とチューハイだった。チューハイは梨とメロンのエキス感が半端ではなく、とても飲みやすい。小松菜は洗っている段階で新鮮さが手に伝わってきた。苦みやエグ味が一切なく、爽やかな後味だった。

グリーンマトリックスを体験しようと駅前に戻った。街中から3歩で竹林に入った。ワープした、と言いたいような突然の変化である。

街並みから地続きで公園の竹林に入る
街並みから地続きで公園の竹林に入る
豊かな緑があふれる公園にせせらぎが流れる
豊かな緑があふれる公園にせせらぎが流れる

「せせらぎ公園」をそのまま歩いて行くと、圧倒的な緑に目が洗われた。道沿いに小川が流れている。鴨が3羽、しきりと餌を漁っている。そっと近づいてカメラに収めたが、彼らは人の気配に驚く様子を見せない。自転車のおばあちゃんが、孫に鴨を見せている。鴨など気にも留めずに足早に行く人たちもいる。ここは公園である以上に駅への通路なのである。

小川で鴨が餌を探す
小川で鴨が餌を探す

短いトンネルを潜った。上の車道と下の遊歩道は交わらない。「グリーンマトリックス」はこれかと納得した。トンネルからしばらくで、川は大きな蓮池に連なる。胸の空くような光景である。サギらしい鳥が1羽、羽繕いをしている。近くには江戸時代の古民家もあるが、現在中には入れない。

公園のアクセントになっている車道と遊歩道を分けるトンネル
公園のアクセントになっている車道と遊歩道を分けるトンネル
公園に佇む江戸時代の古民家
公園に佇む江戸時代の古民家

引き返して駅へ向かう途中で親子連れに遭遇した。
「鴨さんにあいさつしようね」
5歳の僕はお母さんの周りを走り回っている。Sさんは保土ケ谷区からこの7月末に引っ越してきたのだという。
「このあたりは、子育てするのにとてもいいところですよ」
一緒に記念撮影をすることにした。僕はピースをしながらぴょんぴょん跳ねている。私も久しぶりで渾身のピースをした。木漏れ日が目に柔らかかった。

元気いっぱいの男の子とママと記念撮影する荻野アンナさん
元気いっぱいの男の子とママと記念撮影

【基本情報】
・ Laule’a Rainbow (ラウレア レインボー)
住所:横浜市都筑区仲町台1-32-21 アルス仲町台せせらぎ公園壱番館 1F
URL:https://laulea-rainbow.com/

・Euphonica(ユーフォニカ)
住所:横浜市都筑区仲町台1-33-19
URL:https://euphonica.jp/

・JA横浜『ハマッ子』直売所 メルカートきた店
住所:横浜市都筑区東方町1401 (きた総合センター敷地内)
URL:https://ja-yokohama.or.jp/tenpo/mercart_kita

・せせらぎ公園
住所:横浜市都筑区新栄町17
URL:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/tshokan/tsuzuki/library-material/kyodo/photo/tsuzuki-c/tz11004.html

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荻野アンナの笑顔の写真

ライター:荻野アンナ
1956年横浜市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。83年より3年間、ソルボンヌ大学に留学、ラブレー研究で博士号取得。89年慶應義塾大学大学院博士課程修了。以後2022年まで同大で教鞭をとり、現在名誉教授。1991年「背負い水」で第105回芥川賞、2002年『ホラ吹きアンリの冒険』で第53回読売文学賞、08年『蟹と彼と私』で第19回伊藤整文学賞を受賞。そのほかの著書に『カシス川』『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』など。神奈川近代文学館館長。

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